「もー!だめだって!」
「ナァン」
「そんな可愛い声をしてもだめ!」
ダイニングの中でポケモン用のおやつ袋を抱えたトウヤと、その足元で鳴くチョロネコ。事の発端は、もう何度目になるのか、トウヤが置いておいたそのポケモン用おやつを、戸棚を勝手に開けてチョロネコが食べてしまうことにあった。
「フシャー!」
「怒ってもだめ!」
「ゥナア……」
「泣き真似してもだめ!」
とにかく、これはみんなのなんだから!と困り顔で叱るトウヤの顔を、とびっきりの悲しそうなうるうるとした目でチョロネコが見つめる。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「もー……わかったよ。ちょっとだけだからね。食べたら運動するんだよ!」
「ナァン」
にっこりと笑顔になったチョロネコに、少しだけおやつをあげると、ペロリと平らげては、また小悪魔的な目でトウヤを見上げる。もっとくれるでしょ?と自信と期待に満ちた目で見られると、どうにも叶えてしまいたくなるが、トウヤは頭を振って自制した。
「もうだめ!それに運動もしなきゃ……太っちゃうよ」
「ナ!ウヴーー!!」
「わー!ごめんごめん!」
急にトウヤの脚に向かって強烈なパンチを繰り出してくるチョロネコに、トウヤはおやつ袋を手放さないまま宥めようとした。
「おや」
「あ!ギーマさん」
「どうしたんだい」
そこへ家の主であるギーマが顔を出した。トウヤの持っている袋とチョロネコの様子に、ある程度察しがついたのだろう。ギーマがひょいとトウヤの腕からおやつ袋を取る。
「チョロネコ、もっと欲しいかい?」
「ンナンナ!」
「なら……かれと勝負をして、勝てたらわたしときみは2倍のおやつ、負ければどちらも明日のおやつは半分。どうかな?」
「ナァン!」
待ってましたと言わんばかりに庭へと駆けていくチョロネコの後ろ姿を見やりながら、トウヤはすごいや、と感心した。
「ギーマさんもおやつ好きなの?」
「なに、リスクは共に負わなくてはな。だがそうだな。こちらが勝てば、わたしの今日の夕食はなくてかまわないよ」
「え、それはだめだよ!」
「ふふ。なら、わたしたちに勝つことだ」
「うん、負けないからね!」
そう言って手持ちたちに声をかけに向かうトウヤの背中を見て、目を細めながらギーマは庭へと足を向けた。
後日談
ソファに腰掛けた自分の膝の上で眠るチョロネコを眺めながら、昼間のできごとをトウヤは思い出す。
「なんでか弱いんだよなあ」
「なにがだい」
「!」
するりと音もなく後ろから顔を覗かせたギーマに、トウヤの背が若干跳ねる。それを気にするでもなく、ギーマはトウヤの隣に座った。
「チョロネコの目を見てると、甘やかしちゃいそうになるんだ。なんでかなって思……って」
ぱちりとギーマと目が合う。その瞬間、抱えていたなぞの答えがわかってしまい、トウヤの顔がぼっと赤くなる。
「あ……わ、わかったから、大丈夫」
「ふうん。わたしには教えてくれないのかい?」
「え」
それこそまさしくチョロネコのように、悪戯っぽく不敵で怪しげに目を細めたギーマに、絶対にわざとだと思いながらも、トウヤはもごもごと口をひらいた。チョロネコにさえ甘くなるのだ。その原因である瞳に勝てるはずなどないのだから。