進化前

「#なまえ#さん、なにみてるんですか?」
「あ。これはね、進化前の子たちの写真」
ピラっと手に持っていた何枚かを、休憩にやってきたカズマサに手渡す。進化してもみんな可愛い相棒たちだけど、進化前のポケモンの愛らしさは別格だとも思う。
「うわあ、どれもすごくかわいいですね!」
「でしょ?特にこの、壁からちょっと顔をだしてこっちをみてるのが、とってもお茶目でかわいいくて……」
「わかりますわかります」
そんな話をしていたら休憩時間が終わりに差し掛かっていた。そろそろ執務室に戻らないと、と思って写真をしまって席を立つ。振り返ってドアの方を見て、思わずぎょっと身体がこわばってしまった。
「……。……なにしてるの、兄さんたち」
ドアの向こうに佇む長躯。しかも、それぞれ左右から半身だけをのぞかせて、じっとこちらを見る兄たちの姿は、なかなかに異様だった。
「……」
「……」
しかも無言。よくわからないけど、業務に遅れるわけにはいかないので、じっとこちらを見る兄たちの間を縫って廊下へと出た。歩いている間も背後から視線が注がれつづけている気がした。

「もー、なんですかボス。びっくりしましたよ」
「だって、ぼくら進化前だよ」
「そう。進化前でございます」
「???」
その後も、壁の向こうから少しだけ顔をのぞかせるサブウェイマスターの姿がしばらく見受けられ、新人鉄道員の間に、人面ゴチルゼルの怪談が囁かれるようになったとかならなかったとか。


後日談
「ねえ。ノボリ」
「おや。クダリ」
乗務を終えて執務室に向かう途中でノボリを見かけて声をかける。今日あったバトルのこと、気になったポケモンたちの様子なんかを共有しながら、ふと、最近の行動についての話題になった。
「そういえば、#なまえ#に写真撮ってもらってない」
「ええ、業務中の撮影は推奨されませんから」
でも、家の中でぼくとノボリが、壁からちょっと顔をのぞかせて#なまえ#をみても、#なまえ#は怪訝な顔をして横を通って行くだけだ。ぼくら進化前なのに。
「!」
「!」
次の曲がり角を曲がった瞬間、ぼくらはその場に釘付けになった。まひして動けないポケモンの気持ちってこういうことだと思う。
ぼくらを待ってたんだろう。#なまえ#が、執務室のドアからちょっと顔をのぞかせてこっちを見てた。それだけ。それだけだけど、ぼくらわかった。
「……#なまえ#は進化前だね」
「……はい。間違いなく」

後で、ライブキャスターで撮影をしてなかったことを本気で悔やんだ。隣で聞いてたクラウドは、眉間にネジ山みたいな険しいシワを寄せてたけど。